サステナビリティ
イノカ/ドラえもんも驚く!?ブルーエコノミーを推進する注目の「環境移送技術®」②企業から地方自治体を巻き込んだ環境保全プロジェクトも加速
2025.12.19








独自のサステナブル活動をされている企業さんをご紹介するこちらのコラム。前編に引き続き、独自技術「環境移送技術®」を用いて、“人も自然も栄える社会づくり”に取り組まれるスタートアップ企業、株式会社イノカさんにお話を伺います。 「環境移送技術®」とは、特定の自然環境を水槽内で人工的に再現する技術。自然の一部をナイフでサクッと切り取って、フォークに刺して丸ごと運んでしまうというドラえもんのひみつ道具『切り取りナイフとフォーク』のような技術を、もちろんドラえもんではなく、生き物好きの知見とサイエンスを組み合わせて発展させています。 水槽内に再現された自然環境では、天候など不確定要素に左右されることなく安定した計測が可能。海と人との共存を目指すブルーエコノミーの概念が浸透しつつある中、この技術は、課題解決への糸口として各団体から熱い注目を集めています。 後編となる今号では、この「環境移送技術®」が実際にどのような研究に使われているのかについて、具体的に教えていただきます。ご回答いただくのは、前号同様、同社取締役COO 竹内四季さんです。
海洋生態系への影響を科学的に評価
―「環境移送技術®」で再現された水槽は、実際にどのような使われ方をしているのですか?業種や業界、企業さんなどの例を教えてください。
竹内さん:対象業界としては、化学品メーカーや素材メーカーなどが多いですね。自社製品が海洋環境に及ぼす影響を測定するために、影響評価実験という観点からご依頼をいただきます。
身近な例では、体に塗った状態で海に入ることの多い日焼け止めですね。資生堂やロート製薬といったメーカー各社と共同で、さまざまな海の環境下で、日焼け止め製剤がサンゴに与える影響のデータを取得、特定製品の海への影響が低いことを実証する研究などを行いました。
今後ブルーエコノミーへの意識がさらに浸透していくにつれ、海洋に流出する可能性のある洗剤やバス用品、アパレル繊維のほか、タイヤなどの素材分野にも、研究調査の枠組みが広がっていくと考えています。
製鉄の副産物がサンゴの苗床に
―海の生態系にいい影響を与えるものや素材の研究もあるそうですね。具体的なものを教えてください。
竹内さん:ネガティブな影響の評価とは反対に、環境改善というポジティブな可能性を模索する際にも、イノカの「環境移送技術®」が使われています。
例えば、「鉄鋼スラグ」という製鉄工程で製鉄の副産物があるんですが、この素材の持つ特性を生かして、海藻やサンゴがくっついて育つための着生基盤として利用する研究をJFEスチール社と共同で進めてきました。この研究はすでに水槽内での実証が完了しています。
また、新たな海洋資源の価値を発掘する取り組みもあります。例えば、特定のサンゴに生息する微生物を由来とした抗がん剤開発、新たな美容成分を含む化粧品開発の研究などですね。サンゴ礁の持つ生物多様性は、まさに資源の宝庫。海にはまだまだ、たくさんの資源が眠っているということを実感します。


左写真:「イノカラボ」内でのインタビューの様子。マングローブの海を再現した水槽もある。左から弊社SOI事業部 岡村、株式会社イノカ COO 竹内さん
右写真:オフィス内にて水槽試験中の様子。
環境改善に向けたプロジェクト
―環境保全活動に向けた大きなプロジェクトにも参加されているとのことですが、代表的なものを教えていただけますか?
竹内さん:2022年にスタートした東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」、その東京湾水質改善に向けた実証に参加しました。東京湾では、滞留するヘドロによる水質悪化や悪臭といった環境悪化が大きな課題。イノカの「環境移送技術®」で東京湾底質環境を再現して実証実験を進め、前述したJFEスチールさんの「鉄鋼スラグ」を用いた環境改善の可能性について調査しました。
また、瀬戸内海の藻場・干潟を保全する「瀬戸内渚フォーラム」を設立、自治体や企業、教育機関とともに活動しています。
藻場(もば)というのは、海藻や海草が茂る場所のことで、魚の産卵や稚魚の生育場所となるほか、水を浄化するなどの重要な役割を担う“海の森”“海のゆりかご”。近年では、海藻類の持つ炭素を吸収・貯蓄する特性が明らかになり、藻場は脱炭素社会に向けた新たな一手になり得る「ブルーカーボン」創出が期待できるエリアとして注目されました。しかし海水温上昇や磯焼けなどにより、藻場の面積は全国的に激減の一途を辿っています。
イノカの「環境移送技術®」で藻場環境を再現して、藻場・干潟が再生するための研究を進め、地域のみなさんと一緒に根本的な解決に向けて取り組んでいます。
人も自然もともに栄える未来へ
―ユニークな事業展開をされるイノカさんですが、今後の展望や活動目標などがあれば、教えてください。
竹内さん:今は海洋環境をメインに「環境移送技術®」を提供していますが、水田を再現したゲンゴロウ飼育、畑を再現したミミズ飼育など、陸上の環境移送にも着手しています。イノカが愛しているのは、自然全般です。海だけでなく、自然環境全般に関わる「環境移送技術®」を加速させて、問題解決や新しい可能性を模索していきたいと思っています。
グローバルな動きとしては、2024年10月にマレーシアに海外子会社イノカアジアを設立しました。海洋生物多様性のホットスポットにもなっている豊かな海をベースに、東南アジア全体を巻き込んだ海洋環境保全と技術開発を加速させていきたいと考えています。
そして現在、地球の環境問題に関するルールメイキングはEUが主導していますが、こと海洋研究においては、もっとも豊かで生物多様性を誇る海を有する東南アジア圏がEUに働きかけ、おおいに協力するべきだと考えています。イノカアジアを通して研究機関やフィールドとの連携を進め、海洋環境保全のグローバルなルール作りをリードできたらと思っています。
最後になりますが、未来を担う若い世代に自然環境に興味を持ってもらうことも重要だと考えています。現在、文京区オフィス内の「イノカラボ」を区内の中学生向けに週三日開放し、放課後の居場所として活用してもらっています。また、子どもたち向けのイベントとして「環境エデュテインメント」プログラムも実施。都市部で海の環境に触れられる機会を提供して、地球環境やその課題を身近に感じてもらう取り組みを行っています。イノカが掲げる「人類の選択肢を増やし、人も自然も栄える世界」に向けた取り組みを、さらに拡大していきたいと思っています。
―竹内さん、貴重なお話しをありがとうございました。難しいテーマを分かりやすく楽しくご回答いただき、とても興味深く学ばせていただきました。
イノカさんの社員は“いきもの好き”な人ばかりで、名刺の裏には「サンゴ」「ウミウシ」など皆さんの“推し”の生き物が記載されているのだとか。竹内さんの名刺の裏にあったのは、「ホモ・サピエンス」。人類がこれまで構築してきた社会や経済システムへの敬意、そして自分も次世代に向けてアップデートすることに貢献したいからだとか。
地球環境変化が待ったなしの課題を突きつけてくる中、自然環境研究の新たなモデルとして注目される「環境移送技術®」。今後も、イノカさんのさまざまな取り組みを心から応援しております。
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